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AutoReserve 等を開発する株式会社ハローのテックブログです。スタートアップの最前線から本質的な価値を届けるための技術を紹介します。

エンジニアのコーディングAI活用の必須化とこれまでの道のり

CTOの杉本です。

旅先の南米ペルーでこの文章を書いています。アンデスの山奥まで旅して、マチュピチュを見てきました。世界は広いがその気になればどこでもいつか辿り着ける程度には狭いのだな、と感じています。

ハローでは、エンジニアが開発する際にコーディングAIを活用すること(Cline, Cursor Agent, Claude Code など)を必須にしました。

社内エンジニアにとっての鉄の掟である Notion の開発ガイドラインにもこのことを記載しています。

同時に、エンジニアがコーディングAIを自由に実験・試行錯誤できるように"AI使い放題"に近い形で制度を整備して運用をしています。

今回は、スタートアップでコーディングAIを最大限に活用するためにどうしているかを共有します。

コーディングAI活用は、2025年最大の low hanging fruit

なぜコーディングAIを活用するのか?なぜ必須化までするのか?そのことについてまず書きます。

コーディングAIの活用は、開発組織の生産性にとっての2025年最大の low hanging fruit (小さな労力で大きな収穫が得られるレバレッジポイント)だと僕は考えています。

個人としてコーディングAIを活用することで、控えめに言っても20%程度の生産性の向上を感じています。開発メンバー全員がコーディングAIを常に活用できるようにすれば、開発組織全体で開発プロセス全体を加速させることができ、最低でも20%程度生産性が上がると期待しています。

もちろんAPIコスト等はかかりますが、人件費などを考慮すると現時点でも十分に元がとれる投資です。

近い将来、LLMの発展でさらに大きな恩恵を受けることができます。コード生成はもちろんですが、コードリーディングやバグ修正、ドキュメント生成など開発のあらゆるフェーズで活用できます。投資対効果はより大きくなります。

すでにそうなりつつありますが、今後 Git やコードエディタを使うのと同じように、開発時にコーディングAIを使うことが当たり前の世界になると予想しています。次の世界での当たり前を徹底できるチームにするため、このタイミングで必須にするという意思決定をしました。

コーディングAI利用制度

エンジニア全員(業務委託含む)に Claude / Gemini などのAPIキーや Claude Code の権限を申請ベースで配布して、基本的に自由に使えるようにしています。

以下のようなツールを利用できるようにしています:

  • Claude API / Claude Code / Claude Max
  • GitHub Copilot
  • Gemini API
  • Cursor

また、リポジトリやSlackと連携する形で自律型のコーディングAIを導入しています。

  • Devin
  • Claude Code Action
  • GitHub Copilot Code Review
  • OpenAI Codex

自由に実験できる環境にする

コーディングAIに関して大切だと思っているのは、自由に実験できる環境にすることです。コーディングAIは依然として黎明期であり、直近のリリースを追っていてもわかるように、毎月のようにベストなモデルやツールが変わる状況です。

制度として「Cursorを使う」という風に特定のツールを指定するのではなく、どのツールを使うかどうかは個人の裁量で自由に試せる環境にしています。

現場のエンジニアに新しい技術やツールを積極的に手を動かして試してもらうことで、技術環境の変化に適応しやすくすることを意識しています。

予算感

制度としては、1人あたり $300 / 月 上限を目安として設定しています。

あくまで目安として運用しており、業務上必要であれば上限を超えても利用できるようにしています。(例: 大規模リファクタリングや新規事業でのプロトタイピングなど)

Anthropic API コンソールでの利用状況を監視して、変な使い方をしていて無駄に使いすぎているような場合は適宜ヒアリングやアドバイスをしています。

実際の利用としては、多い人で $200 ~ $300 / 月 程度になっています。予算は一応設定してはいますが、開発に使う必要分は十分に使える環境にしています。

実際の利用状況

以下のようなツールの組み合わせで利用しているメンバーが多いです:

  • VSCode / Roo Code (Cline) / Claude Sonnet 4, Gemini
  • Claude Code + VSCode + GitHub Copilot
  • Cursor Agent + Claude Sonnet 4

コーディングAIの情報や知見を話すために、Slackのチャンネルを用意して、メンバー主導で活発に情報を共有しています。

Cursor を利用しているメンバーは比較的少ないですが、これは僕を含めてOSSプロダクトが好きなメンバーが多いことが理由かもしれません。

エンジニア以外での活用

意外な点は、エンジニア以外のメンバーからも自発的にコーディングAIを活用する動きが出てきたことです。

たとえば、以下のような動きがありました:

  • デザイナーが Cline + Claude で動く SaaS のプロトタイプを作成
  • プロダクトマネージャーが Devin Search を使って、プロダクトの詳細な仕様を調査
  • カスタマーサポートが Devin や Devin Search を使って、分析SQLのクエリを作成

Devin Search でメール仕様を調査して興奮するPdMの様子

全体利用までの経緯

今でこそメンバー全体でボトムアップ的にコーディングAIを活用することが浸透してきていますが、導入当初は思ったように利用されませんでした。

全体利用までの経緯を書いておきます。

実験フェーズ

2025年1月に個人で Cline + Claude を触って感動したことが最初の動きでした。

2月上旬に Anthropic Claude のAPIキーをエンジニア数名に実験的に配布して利用できるようにしました。この実験検証の期間で、一番多いメンバーでも $200 / 月 で予算的に問題がないこと、APIコストを上回る生産性向上が得られることを確認しました。

そして、2月末に Anthropic APIキーを業務委託含むエンジニア全員に配布できるようにしました。

実験的に小さく始めて、データがとれて検証できたら一気に動くアプローチで進めました。

導入フェーズ

制度を作ってエンジニア全員がコーディングAIを利用できるにはしましたが、3月での全体での利用状況は意外にも少なく、良くありませんでした。

一部メンバーは毎日のように使っていましたが、80%以上のエンジニアメンバーはたまに利用する程度か最初試しに利用したがあまり利用していない、といった状況でした。

使うエンジニア・使っていないエンジニアで二極化しています。

僕個人としては開発時には毎回利用していて、Cline なしでの開発は考えられないほどだったので、意外な結果でした。

改善フェーズ

これではまずいと思い、4月上旬「コーディングAI活用推進プロジェクト」を立ち上げました。

プロジェクト立ち上げ

ハローでは、プロジェクトという単位で課題にアプローチすることが多いです。

プロジェクト開始と同時に、#pj-20250631-コーディングAI活用推進のような完了期限付きのチャンネル名でSlackチャンネルが作成されます。プロジェクトに関する議論や情報共有はこの中で行われます。

このアプローチにはいくつか利点があります:

  • プロジェクトとして定義すると、スコープが定まり「やるぞ感」が出る
  • フォーマット上、期限が必ず設定されるので、完了に向けた適度なプレッシャーがかかる
  • 議論が流れにくい

目標は「月1億トークン全員使うチームを作る」にしました。活用できているエンジニア群が月1億トークン以上使っていたことが理由です。当然、トークン消費 == うまく活用できている、という風には一概には言えませんが、定量的な目標はないよりあるほうがずっと良いです。

また、コーディングAI活用推進チャンネルに、最新のコーディングAIやLLMの情報が自然に集まってくるようになりました。

アンケートによる課題抽出

課題抽出と知見共有を目的に、以下のようなアンケートをテキストベースで実行しました:

  1. ハローでの開発業務において Cline や Cursor Agent などのコーディングAIエージェントをどの程度使えてますか? (例: ほぼ毎日使っている、たまに使う、正直あまり使えていない)
  2. それぞれのツールをどのような場面で使っていますか? (例: Cline をテストコード生成で活用している、コードリーディングで活用しているなど)
  3. 使ってる場合、どの程度生産性が上がっていると感じていますか? (例: 10%上がった、50%上がった、全く変わらないなど)
  4. 使えていない場合、その理由は何だと思いますか? (例: 使い方がよくわからないなど)
  5. その他、なんでも言いたいこと(例: こういう使い方をしているなど)

課題に関しては以下のような回答がありました:

  • プロンプト設計が難しい
    • 最適なプロンプトの設計が難しい
    • 想定している修正をしてくれない
  • 精度の問題
    • 細かいところがボロボロで結局書き直すことになった
    • バグの原因調査に使ってもそんなに役に立たないことが多い
  • 心理的障壁
    • ツールへの不信感
    • ソフトウェア開発者の作業の質の変化へ心理的な抵抗

結果の中で意外だったのは、 コードを書くスキルが高いシニアメンバーほどあまりコーディングAIを使えていない傾向 があったことです。

以下のような要因があると思います:

  • コード品質に対するこだわりが強い人ほど、コーディングAIの初期生成コードに対して不満を感じやすい
  • 長年慣れている実装プロセスを解体して、コーディングAIを中心にした実装プロセスに組み替える必要がある(unlearnの必要性)
  • アサインされるタスクの技術難易度が高く、コード生成が活用しにくい

対策とプロジェクトの結果

抽出した課題を元に、どのように活用しているのか?の知見を共有したり、clinerules 等の整備などを行いました。

アンケート直後に「やり方を自分でも見直してみます」という返信も多く、アンケートを行ったことだけでも効果が大きかったと感じています。

その結果、4月以降で利用状況は改善して、メンバー全体として以前よりも活発に活用されるようになっています。

まとめ

今回は、ハローで運用しているコーディングAI活用制度を紹介しました。

また、制度だけでは活用が浸透しないこと、積極的なAI活用推進の必要性があることについても紹介しました。

一番大切なのは、ダイナミックな環境変化に適応していける開発チームにするということです。このような時代で化石にならないためには、絶えない技術的好奇心・誰よりも手を動かして実験する姿勢が必要です。組織がやるべきなのは、そのような文化を後押しすることだと考えています。

ハローでは開発から世界の加速を感じたいエンジニアを募集しています。

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